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こっそりひっそり
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鬼男君は閻魔のことがとてもとても好きだ。ということが伝わればいい。短いです。


「大王の秘書ともあろうもんが、今日はサボリかあ?」

閻魔庁イチのカタブツが、どうしたもんかねえ。そう言って豪快に笑うのは、同期の鬼。人のかたちにより近い自分とは真逆で鬼の特徴を色濃く残し、身の丈ほどの金棒を肩に担いでいる。
賽の河原で、子供たちの積む石を崩すのだ。

「そんな時もあるさ」
「はっは! 今頃閻魔サマはさぞかしお困りだろうよ」
「…やればまあ、出来ないことはない人だから」
「まあな。カミサマだからな」

そうだ、カミサマだ。出来ないことはない。
たった一つをのぞいては。

「閉庁前には戻ってやれよ」
「気が済めば、ね」

背中越しに手を振るのを見送って、僕は石段にしゃがみこんだ。

いつも大王は居なくなる。サボりたがる。遊びたがる。そして甘えてくる。
だからたまには、僕が居なくなってみようと思った。いなくなってどうするのか? 勝手にすればいい。オタオタして仕事が進まなくっても、目の前で見ているわけじゃないから知りません。だいたい見てしまうから手伝わなければなんて思うんだ。ほとんど本能みたいに。鬼の本質はそんなものじゃない筈でしょう。話が逸れてきた。
でもよくよく考えてみれば、人としての生を終えて、ここで目覚めた僕はいわばここで生まれたようなもの。
閻魔庁以外に行き場所が思い当たらない。そこしか、居場所がない。唯一居ていいと許可を与えられている場所がカミサマの隣だなんて。

あの人はやる気さえ出せばなんでも出来るけど、ただひとつ出来ないことがある。
サボることも遊ぶことも甘えることも、愛することも愛されることも、出来るけど。出来るのに。





「鬼男くん」

背後から声が降ってきた。まさかと思って振り返る。ヘラヘラ笑って手まで振って。
仕事はどうした。ここまでどうやってきたんだ。探さなくってもいいのに。

怒鳴る前に、大王の掌が僕の手を握る。

「一緒に、帰るよ?」

笑顔だったけれど、有無を言わさぬ「カミサマ」の声。
でも僕は嬉しかった。頷いて、大王の歩幅に合わせて歩き始める。




死ぬことの出来ないカミサマ。手を繋いでたって、同じ時間を歩けないカミサマ。

あなたが好きです。大好きです。

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