こっそりひっそり
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
---
ごとり、と音を立てて、腕が落ちる。
もう何度目かのメンテナンスは、勿論自分でやるしかない。かろうじて生身のままの左腕は利き手じゃないけど、工具を持つことには慣れてきた。
油の塗られた新しい螺子。サビのきていた螺子は纏めて捨てた。肘から先の部分を両膝で挟み、固定する。左手で螺子を回す。そうしてようやく、指先がじわりと動き出す。
指先の感覚はもうほとんどなくて、まだ腕があったときの勘みたいなもので動いている。一度、取り替えたばかりのときに書類を落として、「鬼男君らしくないね」と言われた。気づかせたくないから、僕は細心の注意を払う。あの人はきっと「どうしてそんなことをしたの」と問うから。
そんなの決まってる、もっとそばにいたいからだ。
肉体が限界を迎えて、腐り落ちるたびに機械と取り替える。
僕が僕じゃなくなっていく。
感覚のない腕はあなたを抱きしめられないし、作りものの眼を通してしかあなたを見られない。
鼓動のリズムだって変わってしまった。
僕に最後に残ったのは、この声だけでした。
だから、終わらない歌を歌います。
僕が終わってしまう前に。
---
---
つないでいた手が落ちて、むき出しになる配線。目の前の身体は酷い音をたてて壊れた。
どうしてなにも言ってくれなかったの。
オレは転がり落ちたネジを拾い上げて、呆然としていた。
PR
◎ この記事にコメントする