こっそりひっそり
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必ず3回勝負に持っていくのは大王の悪い癖。1回負けたくらいではへこたれない。
それを許してしまう僕も僕だけど。
そして今回、28敗目。43戦中なので勝率はそこそこだ。
僕の上司は、しょうもないイベントごとほど食いついて、何かと持ち込みたがる。
「きょーうはなんの日だと思う?」
にこにこ、清清しい程の笑顔で言いにくるくらいなら、書類を1枚でも早く終わらせて欲しい。
無言で視線だけを送る。冷ややかな視線でも、このイカはなかなかへこたれない。
どこからかとりいだしたる赤い紙の箱。ぱりぱりと包装を開け、その中の1本を手渡される。
「お菓子ですか」
「そう。ポッキー。赤いのが甘くて好きなんだよ」
もう1本余分を取り出し、大王はぽりぽりとほお張る。
今日はじゃあおやつはいらないな。そんなことを頭のすみで考えた。
そのままかじる気にもなれなくて、なんとなく手持ち無沙汰のまま菓子に視線を落とす。
「で、これをどうしろと?」
「鬼男君、ポッキー知らないんだったらポッキーゲームも知らないかなあ」
「…このお菓子で何を遊ぶんですか。チャンバラですか」
「どうしてそういう発想になっちゃうんだよう」
拗ねた顔。
大王は2本目のポッキーを取り出して、僕の口元に差し出した。反射的に咥えると、目の前の顔が悪戯っぽく笑う。
「食べずにそのまま目つぶって、ちょっと待ってて」
「何をする気ですか」「いいから」
精一杯端のほうを咥えたまま、僕は言われたとおりに目を閉じた。
少し間を置いて、唇に振動が伝わる。ぱきり、ぱきり。折れる音もする。
それは徐々に近づいてきて、
パキッ。
顔を思い切り揺らす。
「あっ!!」
口元が軽くなったのを感じて目を開くと、チョコレートのついた部分を咥えたまま、悔しそうな顔をする大王と目が合う。
「あとちょっとだったのに…ってか鬼男君あからさまにいやそうだね」
「ああ、それはもう、はい」「即答された…」
大王は溜息をつき、諦めたのか残ったポッキーを平らげていく。
「こーいうことでもないとキスもできないじゃないかー」
「ぶは」
ぽろりと零れた言葉につい噴きだすと、赤い瞳が不服そうに睨んできた。
とうとう自棄になったらしく、5、6本をまとめてかじりついている。
「あのですね、大王」
「んー?」
遠まわしにこんなことしなくても、したいと言えばいつだって。
「…やっぱりいいです早く仕事片付けろやこのイカ」
「うわ結局ソレ!?」
一気に涙目になった大王の首根っこを掴み、椅子に座らせる。
書類をこれでもかと積み上げ、その横に判を置いて。
「僕も頑張って仕事終わらせますから」
「えええ…これを…?!」
「はい。頑張って下さい。それで、」
片付いたら、大王の部屋にお邪魔してもいいですか。
囁いた声に、ぼん、と煙があがったように見えたのは、気のせいではないと思う。
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