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こっそりひっそり
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思いつきの鬼閻短文置いておきます。それにしても文章リハビリうまくいかねーな。
毎回1万字ずつ書いて連載していた時期があったなんて自分で信じられそうに無い。
 


答えなんて何処にも無い。

 

書庫でずっと文献を眺めている。
文字の羅列は淡々としているけれど心地良くて、遅めの昼食の後ここに通うのは既に日課のようなものだった。
置いてあるのは現世の理と、冥府に訪れた無数の死者の記録。それはそれは膨大な数で、それも日ごとに増えていく。
どこかの国で戦争なんて起きようものなら、途端に千や万の死人の行列が出来る。老若男女問わず。
自分が死んだことも理解していない幼い子供の記録なんて、それこそ数ページにも満たない薄いものだ。
それでも僕は目を通す。
いのちの記録を、ひとつの物語として。


「おーにーおーくううーーん」

間延びした暢気な声。その直後にひたりと背中に張り付く感触。
ああ本当にこの人は。声だけでも鬱陶しいのに、やたら僕に触りたがる。

「君、またここにいるんだねぇ」
「耳元で言わないでください。気持ち悪いしうるさいです」
「うわ、気持ち悪いとか言わなくてもいいじゃん!」
「オッサンの猫撫で声ほど気持ち悪いものはないです」
「じゃあイケメンボイス出しといたらいい? いいの? ねぇ鬼男くん」
「嫌です。いい加減にしないと刺しますよ」
「……はい」

頭ザックリはイヤだなあ、そう言って大王はやっと離れた。
机に腰かけようとしたところを「行儀が悪いでしょう」ぴしゃりと叱る。
渋々椅子を引いて、わざわざ後ろ向きにして。背もたれにしがみ付くように座るなんて、お前は子供かよ。

「せっかく昼休みなのに、構ってくれないから遊びにきちゃったよ」
「…書庫は遊び場じゃないでしょうが」
「まあそれはそうなんだけどさー」

ガタガタガタ。椅子を揺らして膨れる大王を一瞬睨んでおいて、文献に視線を落とす。
長い間、同じ様な毎日を繰り返すだけなら、退行しても仕方がないのかもしれない。
ひとりならば大王だって、黙々と仕事をこなすだけだったろうに。僕がいるばっかりに。


ざわざわする。心の中が。


目は文章を追っているのに、頭に入ってこなくなった。ページを繰る手が止まる。
眉間になんとなく、皺を寄せているのが自分でも分かる。

「……大王が、邪魔をするから…」
「え、オレ別に邪魔はしてないよ? 多分」
「存在自体が邪魔です」
「うえええ酷い! 鬼男君酷い!!」

ただの八つ当たりです。すいません。
でも言わずにはいられません。

心の中だけで弁解しておく。

だってこの人は僕の上司で、単なるオッサンで可愛くなくて、神様で、そもそもいのちなんて持っていないから。
だからいのちのあるものがいとおしくて、だから僕に甘えて来るんだ。子供に戻ってしまうんだ。
僕は保護者です。あなたという子供の父親で母親で兄弟で恋人で、いつかいなくなってしまうもの。
いつかいなくなるのなら、好きだなんて言ってはいけない。愛しているなんて言ってはいけない。

なんで僕には永遠が与えられなかったのだろう。
この気持ちにはとっくに答えが出ているのに。

答えなんて何処にも無い。
いのちは確かに、僕のなかにあるのに。

 

 

 

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