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こっそりひっそり
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先日書いてあったおっさん閻魔のイラストで脳内再生してください。


閻鬼っぽく読めるかもしれません。



こおにのはつこい






本当にこのひとは姿が変わらない。膝の高さから見上げていたのに、今は僕のほうが少し高い目線で見ている。
おばあちゃんが年を取らないように感じるのとは違う。あれは時間の流れが同じだから、目線が違っても感覚はおなじなだけで。
大王の時間は止まりっぱなし。
薄く窪んでる目の下の皺も、そこから深く刻まれることはない。
体力もつかない代わりに衰えもしない。完全無欠の永遠のオッサン。

僕がまだ仔鬼だったころの話を、思い出したように大王は話し始めた。
正直恥ずかしくて耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいで、昔話が終わるのを床を見ながらじっと待つ。
友達と殴り合いのけんかをして、傷だらけになって泣いていたのを一生懸命宥めたこと。
雷が怖くて布団を被ったまま大王の寝所まで来た姿が、こどものオバケみたいで可笑しかったこと。
擦り切れたビデオテープを何度も巻き戻して見ているみたいに、この人は嬉しそうに話す。
聞き飽きた、なんて言えずに僕はただ聞いている…ことも出来ず、いい加減壊れたオルゴールのような昔話を遮る。
「…仕事してください。話の続きはまた今度聞きますから」
「うん? ていうか鬼男君。聞きたいことがあるんだけど」
「なんですか。三分で終わらせろ」
「ええー、三分で終わるかなあ」
「とっとと簡潔にお願いします」
「こどもの頃の鬼男君を思い返してみるに、初恋の話とか、そういえば聞いたことがないなあと思ってね」
「はつこい…!?」
「昔はなんでもオレに話してくれたでしょう? けどそれだけは聞いた覚えがないんだよ。オレが忘れてるだけなのかなあ」
大王は頬杖をついたまま思案顔で僕を見上げてくる。オッサンが上目遣いをしたってちっとも可愛げもなにもありゃしない。
視線を逸らす。逸らすというより泳いでいる、が正しいかもしれない。誤魔化すように口を開く。
「多分忘れてるんですよ。大分前の話でしょう。あんた随分とオッサンですし」
「確かにオレはオッサンだけどさあ…そういう言い方は酷くない?」
批難するような言い方とは裏腹に表情は笑っている。…ばれてるのか?
「まあ忘れちゃってるなら今聞こう。ズバリ初恋は誰よ?」
「三分過ぎましたから質問は終わりです。締め切りました」
「締め切っちゃうの!?」
「ただいまをもって」
「あーあー、鬼男君はけちだなあ。減るもんでもあるまいし……いつか聞き出してやる」
「言いませんよ。自力で思い出してください」
「それが思い出せないから聞いてるのになあ。…仕事戻るかあ」
大きく伸びをして、大王は姿勢をあらためた。書類を手に取る。視線が文字を拾ってめまぐるしく動く。
僕は内心ほっとして、新たな書類を運ぶために部屋を出た。後ろ手に扉を閉め、軽く凭れる。掌で顔を覆って、深く溜息をついた。

「……あんたでした、とか、今更言えませんよ…」

本当にどのツラ下げてそんなことを言えばいいんだ。憧れでした大好きでした勿論今だって大好きです、なんて。

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