忍者ブログ
こっそりひっそり
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

あむぁーい。

力の行使とか視察とかで一時的に現世に降りてきてる設定です。服装は多分普通にカジュアルにしているはず。


しとしと、ぴちゃん。


天気はあまりよくない。朝の時点で分かっていた。分かっていてあの人のわがままに付き合った。
そして今少し後悔している。現世の冬の雨は雪が降るよりはましだけど、濡れるとやっぱり寒い。
横で小さなくしゃみが聞こえた。
「…明日にしてもよかったでしょうに。雨が降るのは今日だけだって、予報も言ってたじゃないですか」
「うー、でもねえ、思い立ったが、って言うでしょう。それにしても、さむっ」
くしゃん。大王がするのは子犬がするみたいなくしゃみ。
そんなんじゃすっきりしないんじゃないか? 口には出さずに、緩くなったマフラーを巻きなおしてやる。
寒さに縮こまりながら、大王は目を細めてこっちを見ていた。
マフラーに隠れているけど、多分口元は笑っているんだろう。恥ずかしくなって視線を逸らす。話題を振る。
「どうします? ずっと雨宿りしてるわけにもいかないでしょう」
「そうだねえ。雨、ぜんぜんやまないし……あ!」
「いきなり叫ばないでくださいよ」
「傘、もってた」
「早く出せよ!」
「ごめんごめん、すっかり忘れてた」
飴やらチョコやらの入った鞄を開き、出てきたのは紺地に白ラインの入った折り畳み傘。それはそのまま、僕に手渡される。
「ひとつしかないから、鬼男君が持ってね」
「え、でも」
「鬼男君のが背高いでしょ?」
「……そうですね。はい」
相合傘か、と内心頭を抱えた。何が悲しくてこんなおっさんと。
でも早く戻らないといけないから。僕のほうが背が高いから。傘はひとつしかないし。仕方がないんです。
思いつく限りの言い訳を並べて、傘を開く。ああ、やっぱりそれほど大きな傘じゃないよな。折り畳みだもんな。
極力大王の方へ傘を傾ける。濡れて風邪をひいたのち、仕事が滞るのはおおいに困る。僕の左腕はほとんど濡れてしまうけど、別にどうってことはない。
歩幅をあわせてゆっくり歩く。こんな雨の中、外を歩いている人はほとんどいない。
無言のまま歩いていると、不意に大王が僕の右手を掴んだ。立ち止まり、傾いた傘をまっすぐにする。そして覗き込むようにして僕を見上げる。こころなしかふくれっつらだ。
「鬼男君、腕すっごい濡れてるじゃないか」
「はあ…。けど、あんたが濡れるよりはいいかと思って」
「よくない」
「このくらい平気ですから」
「オレがいやなの! …もちょっと寄ったら、濡れない、かな?」
そう言って、右腕にしがみついてくるものだから。
もうこの人は手に負えない。振り払えない僕も重症だ、わかってます。
「大王」「うん?」
仕返しに、傘にかくれてキスをした。
こういう雨の日も悪くないな。
PR
◎ この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
258  257  256  255  254  252  251  250  249  248  247 
ブログ内検索
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
最新コメント
[10/25 もも]
[02/28 ぽち]
[02/20 紫苑]
[02/18 のぞみ]
[01/22 REN]
プロフィール
HN:
漣/halcyon
性別:
非公開
職業:
接客業
趣味:
イラストとDTM他、ゲームや動画の作成。インドア。
自己紹介:
掲載している画像について、個人的に楽しむ範囲でのDLは許可しています。
カウンター
忍者ブログ [PR]