こっそりひっそり
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あむぁーい。
力の行使とか視察とかで一時的に現世に降りてきてる設定です。服装は多分普通にカジュアルにしているはず。
力の行使とか視察とかで一時的に現世に降りてきてる設定です。服装は多分普通にカジュアルにしているはず。
しとしと、ぴちゃん。
天気はあまりよくない。朝の時点で分かっていた。分かっていてあの人のわがままに付き合った。
そして今少し後悔している。現世の冬の雨は雪が降るよりはましだけど、濡れるとやっぱり寒い。
横で小さなくしゃみが聞こえた。
「…明日にしてもよかったでしょうに。雨が降るのは今日だけだって、予報も言ってたじゃないですか」
「うー、でもねえ、思い立ったが、って言うでしょう。それにしても、さむっ」
くしゃん。大王がするのは子犬がするみたいなくしゃみ。
そんなんじゃすっきりしないんじゃないか? 口には出さずに、緩くなったマフラーを巻きなおしてやる。
寒さに縮こまりながら、大王は目を細めてこっちを見ていた。
マフラーに隠れているけど、多分口元は笑っているんだろう。恥ずかしくなって視線を逸らす。話題を振る。
「どうします? ずっと雨宿りしてるわけにもいかないでしょう」
「そうだねえ。雨、ぜんぜんやまないし……あ!」
「いきなり叫ばないでくださいよ」
「傘、もってた」
「早く出せよ!」
「ごめんごめん、すっかり忘れてた」
飴やらチョコやらの入った鞄を開き、出てきたのは紺地に白ラインの入った折り畳み傘。それはそのまま、僕に手渡される。
「ひとつしかないから、鬼男君が持ってね」
「え、でも」
「鬼男君のが背高いでしょ?」
「……そうですね。はい」
相合傘か、と内心頭を抱えた。何が悲しくてこんなおっさんと。
でも早く戻らないといけないから。僕のほうが背が高いから。傘はひとつしかないし。仕方がないんです。
思いつく限りの言い訳を並べて、傘を開く。ああ、やっぱりそれほど大きな傘じゃないよな。折り畳みだもんな。
極力大王の方へ傘を傾ける。濡れて風邪をひいたのち、仕事が滞るのはおおいに困る。僕の左腕はほとんど濡れてしまうけど、別にどうってことはない。
歩幅をあわせてゆっくり歩く。こんな雨の中、外を歩いている人はほとんどいない。
無言のまま歩いていると、不意に大王が僕の右手を掴んだ。立ち止まり、傾いた傘をまっすぐにする。そして覗き込むようにして僕を見上げる。こころなしかふくれっつらだ。
「鬼男君、腕すっごい濡れてるじゃないか」
「はあ…。けど、あんたが濡れるよりはいいかと思って」
「よくない」
「このくらい平気ですから」
「オレがいやなの! …もちょっと寄ったら、濡れない、かな?」
そう言って、右腕にしがみついてくるものだから。
もうこの人は手に負えない。振り払えない僕も重症だ、わかってます。
「大王」「うん?」
仕返しに、傘にかくれてキスをした。
こういう雨の日も悪くないな。
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